私たち清掃業者が現場で見舞われる最も困難なトラブルの一つに、依頼主と名義人の食い違いがあります。電話で「実家を片付けてほしい」と依頼を受け、現地に向かって作業を始めようとした矢先、その家に住む高齢者から「勝手なことをするな」と激しい抗議を受けることがあります。依頼主は子供であっても、家の名義や居住権が親にある場合、私たちは本人の同意なく一歩も踏み込むことはできません。これは法的な不法侵入や器物損壊に問われるリスクがあるためです。プロの現場では、まず登記事項証明書を確認し、誰が正当な管理権限を持っているかを明確にすることから始まります。名義人が認知症を患っている場合は、成年後見人の有無を確認し、法的な代理権を持った人物の指示を仰ぐ必要があります。また、離婚した元配偶者の名義のままになっている家に住み続け、ゴミを溜めてしまったという事例も少なくありません。このようなケースでは、名義人である元配偶者にとっては資産価値の低下を招く重大な損害ですが、居住者にとっては「追い出されることへの不安」がゴミを溜め込む心理的な引き金になっていることも多いのです。私たち業者は、単にゴミを運び出すだけでなく、こうした複雑な人間関係や権利関係の間に立って、合意形成を図るコーディネーターのような役割を求められることもあります。名義という記号の裏にある、人々の生活の悩みや執着を解きほぐさなければ、本当の意味での清掃は完了しないのです。近隣にゴミ屋敷があり、悪臭や害虫の被害を受けている場合、誰に苦情を言えばよいのか分からないことが多々あります。住んでいる人が借り主なのか、それとも家の所有者なのかを知ることは、解決に向けた戦略を立てる上で非常に重要です。こうした際に活用すべきなのが、法務局で誰でも閲覧できる不動産登記簿です。登記簿には、その土地と建物の所有者の住所・氏名が記載されています。現在ではオンラインで「登記情報提供サービス」を利用すれば、自宅にいながら数百円で確認することが可能です。名義人が居住者と一致していれば、その人物に対して直接、あるいは行政を通じて改善を求めることになります。しかし、名義人が既に亡くなっていたり、遠方に住む親族の名義であったりする場合、居住者本人は「自分には片付ける権限がない」と言い逃れをすることがあります。逆に名義人がしっかりとした人物であれば、その人物に連絡を取り、管理責任を問うことで一気に解決に向かうこともあります。注意すべき点は、登記簿に記載されている住所が古い場合や、相続登記が未了で現在の所有者が特定しにくい場合があることです。その場合は、自治体の環境課や空き家対策部門に相談し、行政の権限で調査を依頼するのが賢明です。名義人を特定することは、法的手段を検討する際や、話し合いのテーブルにつかせるための最低限の準備です。個人のプライバシーに配慮しつつも、客観的な事実としての名義情報を把握することで、感情的な対立を避け、冷静な解決への道筋を見出すことができます。