ゴミ屋敷問題は、当事者間の問題であると同時に、地域の生活環境や安全に関わる社会的な問題でもあります。そのため、個人による訴訟だけでなく、行政が介入して対応するケースも増えています。その根拠となるのが、2015年に全面施行された「特定空家等対策特別措置法」です。この法律は、放置すれば倒壊の危険がある、衛生上有害となる、景観を著しく損なう、といった状態にある空き家を「特定空家等」と定義し、その所有者に対して行政が適切な管理を促したり、必要な措置を取ったりすることを可能にするものです。ゴミが大量に堆積し、悪臭や害虫を発生させている家屋も、この「特定空家等」に該当する可能性があります(空き家だけでなく、人が住んでいても適用される場合があります)。法律に基づき、行政はまず所有者に対して、状況改善のための助言や指導を行います。それでも改善が見られない場合は、勧告、さらに命令へと段階的に措置を強めていきます。勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例が解除され、税額が大幅に増える可能性があります。命令に従わない場合は、50万円以下の過料が科されることもあります。そして、命令してもなお所有者が措置を講じない場合、他の手段では改善が困難で、かつ放置することが著しく公益に反すると認められる場合には、最終手段として行政が自ら、あるいは業者に委託して、強制的にゴミの撤去や建物の解体などを行う「行政代執行」が可能となります。この行政代執行にかかった費用は、原則として所有者に請求されます。行政代執行は、所有者の財産権に対する強力な介入となるため、その要件は厳格に定められており、実際に執行されるケースはまだ限定的です。また、所有者が不明であったり、費用を回収できなかったりといった課題もあります。しかし、この法律の存在により、行政がゴミ屋敷問題に対してより積極的に関与しやすくなったことは事実です。近隣住民としては、まず自治体の担当窓口(環境課、建築指導課、福祉課など)に相談し、行政による対応を促すというのも、問題解決に向けた一つのアプローチと言えるでしょう。