「捨てられない」が加速する時、ホーディング傾向
ゴミ屋敷の最も核心的な特徴の一つが、「物を捨てられない」あるいは「過剰に溜め込んでしまう」という行動です。この傾向は「ホーディング」と呼ばれ、近年では精神疾患の一つ「ホーディング障害(溜め込み症)」としても認識されています。元々物を大切にする性格であったり、収集癖があったりする人が、何らかの「きっかけ」によってその傾向がエスカレートし、コントロール不能なレベルに達してゴミ屋敷化してしまうケースがあります。ホーディング傾向を持つ人は、物の実際の価値に関わらず、それを手放すことに強い苦痛や不安を感じます。「いつか使うかもしれない」「これは貴重なものだ」「これを捨てたら後悔する」といった考えに囚われ、客観的に見れば不要な物、あるいは明らかなゴミであっても、なかなか捨てることができません。収集した物に対して強い愛着や感情的な繋がりを感じており、それを失うことが、まるで自分の一部を失うかのように感じられることもあります。このホーディング傾向が、何らかのライフイベントやストレスをきっかけに、急速に悪化することがあります。例えば、失業や引退、近しい人との死別、病気、あるいは家族関係の変化など、大きな環境の変化や精神的なストレスが引き金となることがあります。これらの出来事によって生じる不安感や喪失感、コントロール感を失う感覚などを、物を溜め込むという行為で代償しようとする心理が働くのかもしれません。物で空間を埋めることで、一時的な安心感や満足感を得ようとするのです。また、加齢に伴う認知機能の低下や、うつ病などの精神疾患の発症・悪化が、ホーディング行動を助長することもあります。判断力が低下し、物を整理したり、捨てる決断をしたりすることがより困難になるのです。一度ホーディング行動がエスカレートし始めると、部屋はあっという間に物で溢れかえり、生活空間を圧迫していきます。本人は問題の深刻さを認識できていないか、あるいは認識していても、捨てることへの抵抗感が強すぎて、どうすることもできない状態に陥ります。ホーディング傾向が背景にあるゴミ屋敷の場合、周囲が無理に物を捨てさせようとすると、強い反発や精神的なダメージを与える可能性があります。専門家(精神科医、臨床心理士など)による診断や、認知行動療法などの適切な治療的アプローチが必要となることが多い、根深い問題と言えるでしょう。