それは、何の変哲もない平日の夜でした。少しお腹の調子が悪くトイレに駆け込んだ私は、用を足し終えたその瞬間、壁に設置されたペーパーホルダーが空であることに気づきました。天理市で配管交換しては水漏れ修理すると予備のストックも、すぐ手の届く場所には見当たらない。どうしようかと焦った私の目に飛び込んできたのは、上着のポケットから少しだけ顔を覗かせるポケットティッシュの姿でした。まさに天の助けだと思い、数枚を取り出して使い、いつものように何も考えずに便器へと流してしまったのです。その時は、まさかこの安易な行動が、数日後に我が家をパニックに陥れるとは夢にも思っていませんでした。 最初の異変は、それから三日ほど経った頃でした。水を流した後の水位が、以前よりもゆっくりと下がるようになったのです。「気のせいかな」「たまたまかな」と、その時は深く気に留めませんでした。しかし、日を追うごとにその症状は悪化していきました。ゴボゴボと不気味な音を立てるようになり、時には流したものが逆流しそうになることも。さすがに不安になり、市販のパイプクリーナーを試してみましたが、効果は全くありません。一体、中で何が起きているのか。目に見えない配管の奥で、静かに、しかし確実に、何かが進行している不気味な予感だけが募っていきました。 そして、運命の週末の朝。ついにその時は訪れました。レバーを引くと、水は流れていくどころか、便器の縁ギリギリまで水位が上昇し、今にも溢れ出しそうになったのです。血の気が引くとはこのことでした。慌ててラバーカップを押し当て、必死に上下させましたが、固く詰まった何かはびくともしません。トイレは完全に沈黙し、なす術を失った私は、呆然と立ち尽くすしかありませんでした。たった一つのトイレが使えなくなるだけで、日常生活がいかに不便になるか。その現実を突きつけられ、私は観念して専門の水道修理業者に助けを求める電話をかけました。 駆けつけてくれた作業員の方は、手際よく状況を確認すると、高圧洗浄機という専用の機材を準備し始めました。そして、作業をしながら私に原因を説明してくれたのです。「あー、これは完全にティッシュですね。水に溶けないティッシュが、管の曲がり角で固まって、コンクリートみたいになってますよ」。見せられたのは、機械の先端についていた、ドロドロの汚物と絡み合った、原型を留めない白い塊でした。あの夜、私が流したポケットティッシュの成れの果てです。トイレットペーパーがいかに水に溶けやすく作られているか、一方でティッシュがいかに水に強いかを丁寧に教えてくれ、私は自分の無知と油断を深く恥じました。高額な修理費用と、半日を棒に振った手間。たった一枚のティッシュが招いた代償は、あまりにも大きなものでした。この苦い経験以来、我が家では「トイレに流していいのはトイレットペーパーだけ」というルールが、何よりも重い鉄の掟となったのは言うまでもありません。