ゴミ屋敷という問題を考えるとき、その背景に発達障害、特に注意欠如・多動症(ADHD)の特性が関わっている可能性が見過ごせません。ADHDを持つ人の中には、本人がいくら努力しても、あるいは周囲がいくら注意しても、どうしても部屋をきれいに保つことが難しいというケースがあります。これは、単なる性格やしつけの問題ではなく、脳機能の特性に由来する困難さが「きっかけ」となっているのです。ADHDの主な特性として、不注意(集中力が続かない、忘れっぽい、物をなくしやすい)、多動性(じっとしているのが苦手、落ち着きがない)、衝動性(思いつきで行動する、待つのが苦手)が挙げられます。これらの特性に加えて、多くのADHD当事者が抱えているのが「実行機能」の困難さです。実行機能とは、目標を達成するために必要な一連の精神的なプロセス、例えば、計画を立てる、作業の優先順位をつける、情報を整理する、時間管理をする、行動を抑制するといった能力を指します。部屋の片付けという作業は、実はこの実行機能を高度に要求する活動です。まず、部屋全体を見て、どこから手をつけるか計画を立て、物を「必要」「不要」などに分類し、不要なものを捨てる決断をし、必要なものを適切な場所に収納する、という一連のステップを順序立てて実行する必要があります。ADHDの特性があると、このプロセス全体、あるいは特定のステップで困難が生じやすくなります。例えば、どこから手をつけていいか分からず混乱してしまう(計画性の困難)、物の要不要の判断ができない、あるいは判断に時間がかかりすぎる(意思決定の困難)、片付けを始めてもすぐに他のことに注意が逸れてしまう(集中力の維持困難)、物を分類したり整理したりするのが苦手(情報整理の困難)、といった具合です。その結果、本人は片付けたいと思っていても、なかなか行動に移せなかったり、始めても途中で挫折してしまったりし、部屋は散らかる一方となり、やがてゴミ屋敷のような状態に至ってしまうことがあるのです。発達障害が背景にある場合、本人の努力だけでは限界があります。特性を理解した上での具体的な工夫(手順の視覚化、タイマーの活用、短期目標の設定など)や、環境調整、そして必要であれば専門家によるサポート(カウンセリング、ペアレントトレーニング、薬物療法など)が、問題解決の鍵となります。