ゴミ屋敷の住人の中には、現状の不快さや問題点を認識し、心のどこかでは「片付けたい」「この状況から抜け出したい」と思っている人も少なくありません。しかし、実際に変化を起こすことに対して、無意識のうちに強い抵抗感や恐怖心を抱いている場合があります。これが「変わることへの見えない壁」となり、行動を妨げる大きな要因となっているのです。人は、たとえそれが不快な状況であっても、慣れ親しんだ環境や状態を維持しようとする心理的な傾向（現状維持バイアス）を持っています。ゴミ屋敷という環境も、長期間その状態で過ごしていると、それがその人にとっての「日常」となり、変化すること自体が大きなストレスや不安を引き起こす原因となります。片付いた後の生活が想像できなかったり、きれいになった部屋でどう過ごせばいいか分からなかったりすることへの漠然とした不安感が、現状維持を選択させてしまうのです。また、片付けという行為は、単に物理的な作業だけでなく、過去の自分と向き合うプロセスでもあります。溜め込まれた物の中には、過去の失敗や後悔、見たくない現実を象徴するものも含まれているかもしれません。それらと向き合うことへの心理的な苦痛を避けたいという気持ちが、片付けを遠ざけます。さらに、ゴミ屋敷である状態が、ある意味で外部との接触を避けるための「鎧」の役割を果たしている場合もあります。部屋が汚いことを理由に人を遠ざけ、傷つく可能性のある人間関係から距離を置くことができるのです。片付けてしまうと、その「言い訳」がなくなり、社会と向き合わなければならなくなることへの恐れが、変化をためらわせる要因となることも考えられます。この見えない壁を乗り越えるためには、変化への不安を理解し、小さなステップから成功体験を積み重ねていくことが重要になります。