ある映画監督の視点！ゴミ屋敷を撮る決意
私が新作映画のテーマとして、いわゆる「ゴミ屋敷」を選んだのには理由があります。正直に言って、企画段階では周囲から反対の声も多くありました。不快なテーマではないか、観客に受け入れられるのか、と。しかし、私にはどうしても描きたい世界があったのです。それは、単に物が散乱した汚い部屋、という表面的な描写ではありません。私が撮りたかったのは、そのゴミの山に埋もれて生きる人間の、声なき声、そしてその奥底にあるかもしれない、切実な願いのようなものです。現代社会は、豊かさと便利さの裏側で、多くのものを切り捨て、見えなくしてしまっているように感じます。人との繋がりが希薄になり、孤独を抱え、社会のスピードについていけずに取り残されてしまう人々。彼らの抱える苦悩や生きづらさが、時に物を溜め込むという、一見不可解な行動として現れるのではないでしょうか。私は、ゴミ屋敷を、現代社会が生み出した一つの象徴的な風景として捉えています。主人公の部屋を満たすガラクタの一つ一つには、彼が生きてきた証、捨てられなかった過去、叶わなかった夢が詰まっている。それを単なる「ゴミ」として断罪するのではなく、彼の人生の一部として、敬意を持って描きたかったのです。もちろん、美化するつもりはありません。ゴミ屋敷が引き起こす衛生問題や近隣トラブルといった現実的な側面も、きちんと描く必要がありました。しかし、それ以上に重視したのは、主人公の内面の葛藤です。なぜ彼はそうなってしまったのか。彼は本当は何を求めているのか。その問いを、観客と共に探っていくような映画にしたかった。撮影は困難を極めました。美術スタッフは、膨大な資料調査に基づき、リアルでありながらも、どこか主人公の心象風景を映し出すような、独特の空間を作り上げてくれました。主演俳優も、役作りのために深く人物を掘り下げ、セリフのないシーンでも、その表情や佇まいだけで、主人公の孤独や痛みを表現してくれました。この映画が、観てくださった方々にとって、ゴミ屋敷という問題を、単なる他人事ではなく、自分たちの社会や、あるいは自分自身の内面と繋がっているかもしれない問題として、少しでも考えるきっかけになってくれれば、監督としてこれ以上の喜びはありません。