ゴミ屋敷問題に詳しい専門家は、条例の有無によって住民トラブルの解決速度と納得感が大きく異なると指摘します。条例が存在しない地域では、近隣住民が耐えかねて警察や保健所に相談しても、「民事不介入」や「権限不足」を理由に門前払いされることが珍しくありませんでした。しかし、明確なゴミ屋敷条例が施行されることで、行政の担当者は「法律に基づいた職務」として堂々と介入できるようになります。専門家によれば、条例化によって最も変わったのは、所有者に対する心理的なプレッシャーと、近隣住民の安心感だと言います。条例には多くの場合、段階的な手順が明記されているため、住民側も「今は指導の段階だな」と状況を把握しやすくなり、過度な不安や怒りが抑えられる傾向にあります。また、専門業者が清掃に入る際も、条例に基づいた行政の依頼であれば、所有者とのトラブル回避がスムーズになります。ただし、専門家は「条例は万能薬ではない」とも警鐘を鳴らします。例えば、ベランダの一部だけが散らかっているといった境界線上のケースでは、条例の適用対象になるかどうかの判断が難しく、依然として近隣との摩擦が残ることもあります。さらに、条例によって一時的に綺麗になっても、精神的な問題が解決していなければ、再び物を集め始めてしまうという課題は残されたままです。条例はあくまで強力なツールの一つであり、それを使いこなす行政職員のスキルや、福祉的な視点を持った継続的なアプローチが、本当の意味でのトラブル解消には不可欠なのです。私はかつて、自分の家がゴミ屋敷であるという自覚が全くありませんでした。きっかけは仕事のストレスと、同居していた母の死でした。次第に片付けが手につかなくなり、気がつくと床が見えなくなるほど物が積み重なっていました。ある日、市役所の職員が訪ねてきた時、私は激しい怒りを感じました。自分の家でどう過ごそうが勝手だ、と追い返しました。しかし、市の条例に基づいた調査であること、そして近隣から火災の心配が出ていることを丁寧に説明されました。その後も職員の方は何度も足を運んでくれ、私を責めるのではなく、まずは生活を立て直す手伝いをしたいと言ってくれました。条例があることで、強制的にゴミを捨てられるのではないかという恐怖もありましたが、実際に行われたのは、私と一緒に必要な物と不要な物を仕分ける作業へのサポートでした。福祉的な支援も受け、カウンセリングを通じて自分の心の穴を埋めるために物を溜め込んでいたことに気づかされました。もしあの時、条例に基づいた行政の介入がなければ、私は今でもゴミに埋もれて暮らしていたか、あるいは火事を出して誰かを傷つけていたかもしれません。条例は、私のような人間を社会から切り捨てるためのものではなく、もう一度社会に戻るためのきっかけをくれるものでした。今では定期的に部屋を掃除し、地域の人とも挨拶ができるようになりました。片付いた部屋で飲むお茶の味が、これほどまでに落ち着くものだとは、ゴミの中で暮らしていた頃の私には想像もできないことでした。
専門家に聞くゴミ屋敷条例が施行された後の近隣トラブルの変化