ゴミ屋敷という状態は、単なる「だらしなさ」や「怠惰」という言葉だけでは説明できない、より複雑な背景を持っていることが少なくありません。その背景の一つとして、精神疾患や発達障害の存在が挙げられます。そして、これらの疾患の中には、遺伝的な要因が発症に関与しているとされるものがいくつかあります。例えば、注意欠如・多動症(ADHD)です。ADHDの特性として、不注意(集中力の持続困難、忘れ物が多いなど)や多動性・衝動性(じっとしていられない、思いつきで行動するなど)が知られていますが、それに加えて「実行機能」の困難さを抱えている場合があります。実行機能とは、目標達成のために計画を立て、情報を整理し、行動を順序立てて実行する能力のことです。この実行機能に困難があると、部屋を片付けるという一連の作業(物の要不要を判断し、分類し、適切な場所に収納し、不要なものを処分する)をスムーズに行うことが難しくなります。結果として、物が散乱し、ゴミ屋敷化してしまうことがあるのです。ADHDは、遺伝的要因が強く関与しているとされる発達障害の一つです。また、うつ病や不安障害といった精神疾患も、ゴミ屋敷の背景に潜んでいることがあります。これらの疾患を抱えていると、意欲や気力が著しく低下し、何もする気が起きなくなります。部屋の片付けはもちろん、日常生活を送ること自体が困難になり、結果としてセルフネグレクト(自己放任)の状態に陥り、ゴミが溜まってしまうのです。うつ病や不安障害の発症にも、遺伝的な脆弱性が関与していると考えられています。このように、ゴミ屋敷の背景にある可能性のある疾患には遺伝的要因が影響している場合がありますが、これもあくまで「かかりやすさ」の問題であり、遺伝だけで全てが決まるわけではありません。環境要因やストレスなども複雑に関係しています。
片付けられない背景にある疾患と遺伝