親や親族の家が、いわゆる「ゴミ屋敷」と呼ばれる状態だった場合、「もしかして、これは遺伝するのではないか？」「自分も将来、同じようになってしまうのではないか？」と不安に感じる方がいるかもしれません。この疑問は、非常にデリケートな問題を含んでいますが、多くの人が抱く可能性のある自然な感情と言えるでしょう。結論から言えば、「ゴミ屋敷」という状態そのものが、特定の遺伝子によって直接的に引き継がれるわけではありません。しかし、ゴミ屋敷化の背景にある可能性のあるいくつかの特性や精神的な傾向には、遺伝的な要因が関与している可能性が指摘されています。例えば、物を捨てられずに溜め込んでしまう「ホーディング（溜め込み症）」と呼ばれる傾向や、注意欠如・多動症（ADHD）に見られる実行機能（計画性や整理整頓能力）の困難さ、あるいはうつ病や不安障害といった精神疾患のかかりやすさなどです。これらの特性や疾患には、家族内で集積する傾向、つまり遺伝的な素因が影響していることが、様々な研究で示唆されています。だからといって、親がそうだから子も必ず同じようになる、というわけでは決してありません。遺伝的な要因は、あくまで「なりやすさ」「傾向」に影響を与える一つの要素に過ぎず、その人の性格や行動、そして生活環境は、育った環境や本人の経験、学習、そして意思など、多くの後天的な要因によって形作られていくからです。遺伝と環境は複雑に絡み合っており、どちらか一方だけで全てが決まるものではありません。したがって、「ゴミ屋敷は遺伝する」と単純に結論づけることはできず、またそう考えるべきではありません。この問題を考える上では、遺伝的な可能性に目を向けつつも、環境要因の重要性や個人の選択の余地を理解することが不可欠です。