ゴミ屋敷の核心的な問題の一つとして、物を捨てられずに過剰に溜め込んでしまう行動、いわゆる「ホーディング」があります。近年、このホーディングは精神疾患の一つ「ホーディング障害(溜め込み症)」として認識されるようになり、その原因について様々な研究が進められています。その中で、遺伝的な要因が関与している可能性が注目されています。多くの研究で、ホーディング障害を持つ人の近親者には、同じようにホーディング傾向を持つ人が多いこと、つまり「家族集積性」が見られることが報告されています。一卵性双生児と二卵性双生児を比較する研究などからも、ホーディング傾向の形成において遺伝要因が一定の役割を果たしていることが示唆されています。具体的にどの遺伝子がどのように関わっているのかについては、まだ解明されていませんが、意思決定や情報の整理、感情のコントロールなどに関わる脳機能の違いが関係しているのではないかと考えられています。例えば、物を捨てるという決断を下すことや、物の価値を適切に判断すること、あるいは物を手放す際に感じるかもしれない不安や喪失感に対処する能力などに、遺伝的な背景を持つ脳機能の特性が影響している可能性が指摘されています。しかし、ここで強調しておきたいのは、遺伝要因だけでホーディング障害が発症するわけではないということです。たとえ遺伝的な素因を持っていたとしても、それが実際に溜め込み行動として現れるかどうかは、幼少期の経験、ストレス、トラウマ、生活環境など、様々な環境要因との相互作用によって大きく左右されます。遺伝子はあくまで設計図の一部であり、その設計図がどのように現実に形作られるかは、環境という名の建築家との共同作業によって決まるのです。ホーディング傾向と遺伝の関係性を理解することは重要ですが、それを宿命と捉えるのではなく、リスク要因の一つとして認識し、適切な対処法を考えることが大切です。
溜め込み行動と遺伝子の関係性