父が亡くなってから五年、私はずっと実家の鍵を開けることができずにいました。登記簿を調べると、家はいまだに父の名義のままになっており、固定資産税の通知だけが私の元に届き続けていました。近隣の方から「庭のゴミが道にはみ出している」という連絡をいただいた時、ようやく私は重い腰を上げました。玄関のドアを開けた瞬間、押し寄せてきたのは、かつての家庭の面影を飲み込んだ圧倒的な不用品の山でした。父は晩年、買い物依存のような状態になり、未開封の段ボールが天井まで積み上がっていました。この家をどうにかするためには、まず名義を私に変更しなければなりませんでしたが、その前にこのゴミをどうにかしなければ、不動産会社も査定にすら来てくれないという現実がありました。私はまず、遺産分割協議書を作成し、他の兄弟に事情を話して、清掃費用を相続財産から差し引くことで合意を得ました。名義人が亡くなっている場合、その家に関する全ての決定は相続人全員の同意が必要になります。ゴミ屋敷の片付けは、ただ物を捨てる作業ではありません。それは父の生きてきた証を一つずつ整理し、私自身の心に区切りをつける作業でもありました。数週間にわたる清掃作業を経て、ようやく床が見えた時、私は司法書士を通じて名義変更の手続きを行いました。名義を自分に変えることで、ようやくこの家に対する全責任を背負う覚悟が決まりました。放置されたゴミ屋敷は、地域の火災リスクを高めるだけでなく、所有者の精神を蝕み続けます。亡くなった方の名義のままにせず、一歩踏み出して現実と向き合うことが、自分自身を救うことにもなるのだと痛感しました。自治体がゴミ屋敷条例に基づいて強制的な介入を試みる際、最大の壁となるのが、不動産の所有者名義と占有権の問題です。たとえ建物がゴミで溢れ、周囲に実害を与えていたとしても、憲法で保障された財産権があり、行政が勝手に入り込んで私物を処分することは容易ではありません。特に問題となるのは、建物の名義人と実際にそこに住んでゴミを溜めている人物が異なるケースです。例えば、名義人が既に施設に入所しており、その親族が勝手に住み着いてゴミ屋敷化させている場合、行政の指導はまず名義人に対して行われます。しかし、名義人に意思能力がない場合、法定代理人の選任が必要となり、手続きは一気に長期化します。一方で、実際に占有している人物には「住居の平穏」という権利が認められており、たとえゴミであってもそれを勝手に排除することは自力救済の禁止に抵触する恐れがあります。行政代執行を行うためには、名義人の特定、適切な手順による勧告、命令、そして公告といった厳しいプロセスを一つずつクリアしなければなりません。最近では、所有者不明土地問題とも関連し、名義人が死亡しているが相続登記がなされていないゴミ屋敷が増加しています。このような場合、自治体は戸籍調査を駆使して相続人を割り出し、一人ひとりに協力を求めるという膨大な作業を強いられます。ゴミ屋敷問題の解決には、法的な名義の整理が不可欠であり、単純な清掃作業以上に、権利関係を解きほぐすための法律知識と粘り強い交渉が求められているのです。
亡き父の名義のまま放置されたゴミ屋敷を片付けた私の記録