隣家がゴミ屋敷で、悪臭や害虫、景観の悪化に悩まされている。何度か注意しても改善されない。このような状況で、最終手段として「訴える」ことを考えるのは自然な流れかもしれません。では、実際にゴミ屋敷の住人や所有者を法的に訴えることは可能なのでしょうか。結論から言えば、可能です。日本の法律には、ゴミ屋敷問題に対して適用できるいくつかの法的根拠が存在します。まず考えられるのが、民法における「所有権の制限」です。土地や建物の所有者は、原則として自由にその不動産を使用・収益・処分できますが、その権利は無制限ではありません。「公共の福祉」に適合するように行使しなければならず、他人に著しい迷惑をかけるような権利の行使は「権利の濫用」として制限される可能性があります。ゴミ屋敷の状態が、悪臭や害虫の発生源となり、近隣住民の生活環境を著しく悪化させている場合、この権利濫用にあたるとして、ゴミの撤去などを求めることができる場合があります。次に、「不法行為」に基づく請求です。民法第709条は、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う、と定めています。ゴミ屋敷から発生する悪臭、害虫、あるいはゴミの崩落による危険などが、近隣住民の健康や財産、平穏な生活といった法的利益を侵害していると認められれば、損害賠償(清掃費用、駆除費用、治療費など)や慰謝料を請求できる可能性があります。さらに、「人格権」や「環境権」といった権利の侵害を主張することも考えられます。人々が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の一部として、良好な生活環境を享受する権利(環境権)や、平穏に生活する権利(人格権の一部)が認められています。ゴミ屋敷がこれらの権利を社会的に許容される限度(受忍限度)を超えて侵害していると判断されれば、差し止め(ゴミの撤去)や損害賠償が認められる可能性があります。ただし、訴訟を起こすには、被害を受けていること、その原因がゴミ屋敷であること、そして被害の程度が受忍限度を超えていることなどを、客観的な証拠(写真、動画、臭気の測定結果、診断書など)に基づいて立証する必要があります。これは容易なことではなく、時間も費用もかかるため、訴訟は慎重に検討すべき最終手段と言えるでしょう。